バイオ系博士の備忘録

プログラミング関係の備忘録

自宅でストレプトマイシン(抗生物質)を作る方法

DIYバイオで何かできないか考えて色々検索していた時に、こんな記事を見ました。

自宅でペニシリン(抗生物質)を作る方法 /バイオハッカー・ジャパン


ペニシリンが作れるなら、他の抗生物質も自作できるんじゃないか?」
そんな安直な考えで、ペニシリンに並んで有名なストレプトマイシンが自作できるかどうか、検討してみました。

 
ストレプトマイシンS.griseusが生産するアミノグリコシド抗生物質で、Waksmanら(1944)によって初めて報告されました*1
S.griseusの属するストレプトマイセス属は、放線菌分離株の90%を占めるグラム陽性細菌で、様々な形状で落ち葉や土壌中に生息しているらしい。
多種多様な放線菌の中でもストレプトマイセス属は頑強で生育しやすく、抗生物質の大部分を生産するとのこと*2
今では培地組成や培養条件を調整することで比較的安定してストレプトマイシンを生産することができるらしく、少し調べてみるとそこまで難しい培養プロセスは必要なさそう*3
だたし、人工的環境に植え継いだ菌種は(抗生物質などの)二次代謝産物の生産能が著しく低下することがあり、これが生産効率のボトルネックっぽい……。


色々調べて、S.griseusの取得、培養、検出、ストレプトマイシン生産までのプロトコルを自力でできるように改変させたものが以下になります。
※ただし、実際には試していないので、条件検討の必要あり。

ストレプトマイシン生産に関する備忘録
  1. 土壌を集める(要場所記載)。3–45cmの深さに掘り、2mmフィルター後、湿度を保ったまま家に持ち帰る。
  2. 100mg/10mLで滅菌生食水に懸濁し、そのうち1mLを滅菌処理し冷却されたSCA培地入りペトリ皿に播種する。
  3. 37˚Cで24–48時間培養し、灰色がかった白っぽいコロニーが出現することを確認する。
  4. グラム染色し、陽性の放線菌(菌糸径0.5–1.0 μm)がいることを確認する(菌糸径2–10 μmは糸状菌であるので、フィルタにかけると良い)*4
  5. 250mL half-strength YEME培地などの液体培地3日から4日培養する。(ここでストレプトマイシンが生産される)。
  6. 1mLとり、6000rpmで10分遠心し(あるいはフィルトレーションにより)、菌体を除去する。
  7. 寒天培地に大腸菌などを播いた後で取得した上清を播き、48–72時間培養後、阻止円を確認する。
  8. 上清を塩基性条件下で活性炭に通し、ストレプトマイシンを吸着させる*5
  9. 酸性条件アルコールでストレプトマイシンを溶出(0.2N 50%メタノールなど)
SCA培地組成 カゼイン, 1g(アミノ酸、ペプチド、ビタミン、微量元素) デンプン, 10g(炭素) 海水, 37g(錯体イオン) 寒天, 15g(固化させるために用いる) 水, 1L (pH = 7.2 +/- 2) YMEM培地組成 酵母抽出物, 3g 麦芽抽出物, 3g 獣肉ペプトン(Bacto peptone), 10g グルコース, 10g スクロース, 170g 水, 1L half-strength YEME培地組成 酵母抽出物, 0.2g 麦芽抽出物, 0.5g グルコース, 0.2g 水, 1L ・培地類やディッシュなどは、いずれもオートクレーブで滅菌状態を保っておく。 ・ストレプトマイシンは10%グリセロールストック中で-20˚C保存可能。


SCA培地は海水を混ぜると代用できるらしい*6(ホンマかいな)
YEME培地が自力だと調達が難しそうですが、Waksmanも初めは肉汁とコーンスティープリカーで培養しているので、工夫は出来そう。
あとは収率との戦い……。

だれか作って(他力本願)


以上、お読みいただきありがとうございました。

*1:Albert Schatz, Elizabeth Bugle, and Selman A. Waksman, Streptomycin, a Substance Exhibiting Antibiotic Activity Against Gram-Positive and Gram-Negative Bacteria, Experimental Biology and Medicine, 55, p.66-69, 1944

*2:木下浩, 「放線菌・糸状菌に生理活性物質を作らせるには」, 生物工学基礎講座-バイオよもやま話- 89巻 p.408–410, 2011
宮道慎二, 「不思議な微生物, 放線菌」, 生物工学基礎講座-バイオよもやま話- 90巻 p.32–36, 2012

*3:US PATENT OFFICE 2515461, 1946
Lekh Ram, Optimization of Medium for the Production of Streptomycin By Streptomyces Griseus, International Journal of Pharmaceutical Science Invention, 3, p.1–8, 2014
武市千代子, 「放線菌の分離と同定」, 跡見学園短期大学紀要, 12, A1 - F16, 1976

*4:その他、メチルレッド陽性、アミラーゼ生産、アルコール発酵陽性などでも確かめられる。

*5:有機物が活性炭に吸着する性質を利用している。脱臭効果もコレ。

*6:Starch Casein Agar (SCA)- Composition, Principle, Preparation and Results (https://microbenotes.com/starch-casein-agar-sca-composition-principle-preparation-and-results/)